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EVIDENCE / 心理学の再現性

心理学の再現性の研究まとめ

心理学の再現性について、研究でわかったことを10本、元の論文の出典つきでまとめています。わかったことだけでなく、研究の限界や「まだわからないこと」も書いています。

実験

意志力って、使うと減っていくの?

よく聞く説

我慢を続けると意志力が切れて、次の我慢ができなくなる——よく聞く話だよね。1998年にバウマイスターたちが発表して「自我消耗」と呼ばれ、広く知られた考え方。

確かめた人

23の研究室で、同じ手順をやり直した

2016年、ハガーたちは手順を事前に登録したうえで、23の研究室・合計2,141人で同じ実験をした。最初の作業で我慢してもらい、次の作業の成績が落ちるかを見た。

ほんとのところ

効果は、ほとんど見えなかった

全部をまとめた効果の大きさはd=0.04。95%の幅がゼロをまたいでいて、「我慢すると次で崩れる」という効果は、この手順でははっきり確認できなかった。

まだわからないこと

別のやり方なら出るのかは、議論が続いている

試したのは、決まった作業の組み合わせ1種類だけ。ほかの課題や、もっと長い時間の疲れでも同じなのかは、研究者のあいだで今も議論されている。

出典: Hagger et al., "A Multilab Preregistered Replication of the Ego-Depletion Effect" (Perspectives on Psychological Science, 2016)

観察研究

マシュマロを待てた子は、将来うまくいく?

よく聞く説

目の前のお菓子を食べずに待てた子ほど、あとで成績がいい——有名な「マシュマロテスト」の話。1990年のショウダ、ミシェルたちの研究がもとになっている。

確かめた人

別の子どもたちのデータで、やり直した

2018年、ワッツたちが別の子どもたちのデータで確かめた。とくに母親が大学を卒業していない家庭の子を中心に、4歳で待てた時間と15歳の学力の関係を調べた。

ほんとのところ

つながりはあった。でも、ずっと小さかった

4歳で1分長く待てた子は、15歳の学力が少し高い傾向。ただ、その関係は元の研究の半分ほど。家庭環境や幼いころの認知能力を考えに入れると、さらに3分の2ほど小さくなった。

まだわからないこと

「待つ力」そのものが効いているのか

15歳の行動面とのつながりはもっと小さく、はっきりしないことが多かった。学力の差も多くは「20秒以上待てたか」で決まっていて、待つ力だけで将来が決まるとは言いにくい。

出典: Watts et al., "Revisiting the Marshmallow Test: A Conceptual Replication Investigating Links Between Early Delay of Gratification and Later Outcomes" (Psychological Science, 2018)

実験

笑顔の形をつくると、楽しくなる?

よく聞く説

ペンを歯でくわえると口元が笑顔の形になって、マンガが面白く感じる——1988年のストラックたちの実験。「笑うと楽しくなる」の代表例として紹介されてきた。

確かめた人

意見の違う研究者が組んで、19か国で

2016年に大勢の研究室で同じペンの実験をやり直したら、差はほとんど出なかった。そこで2022年、考えの違う研究者どうしが組んで、19か国・3,878人で条件を分けて試した。

ほんとのところ

自分で笑顔をつくると、少し楽しくなった

写真の表情をまねる、言われたとおりに笑顔をつくる、という方法では、幸せな気持ちが強まったり、生まれたりした。一方、ペンをくわえる方法でははっきりした結果にならなかった。

まだわからないこと

ふだんの暮らしでも効くのか

わかったのは、実験室で短い時間に気分を答えてもらった結果。落ち込んでいるときや毎日の生活で同じように効くかは、この研究では確かめていない。ペンの方法も決着はついていない。

出典: Coles et al., "A multi-lab test of the facial feedback hypothesis by the Many Smiles Collaboration" (Nature Human Behaviour, 2022)

実験

ふつうの人も、看守役になると残酷になる?

よく聞く説

学生を看守役と囚人役に分けたら、看守役がどんどん残酷になった——「スタンフォード監獄実験」は、状況が人を変える例として教科書でも紹介されてきた。

調べた人

保管記録を掘り返し、参加者15人に話を聞いた

これは実験のやり直しではなく、記録の調べ直し。2019年、ル・テクシエが実験の保管記録をくわしく調べ、参加した15人にインタビューした。

わかったこと

看守役には、具体的な指示が出ていた

看守役は囚人の扱い方について細かい指示を受けていて、自分たちが実験の対象だとは知らされていなかった。データの集め方にもかたよりや抜けがあり、参加者が役に入り込みきっていたとも言いにくかった。

まだわからないこと

人はどんな条件で残酷になるのか

この実験から「状況だけで人は残酷になる」とは言いにくくなった。ただ、これは1つの実験の記録を調べ直した研究。人がどんな条件で残酷になるのかという問い自体は、まだ答えが出ていない。

出典: Le Texier, "Debunking the Stanford Prison Experiment" (American Psychologist, 2019)

あわせて読む今の人も権威の指示に従ってしまう?看守の残酷さには指示があり、指示への服従は今も再現する

ランダム化比較試験

「お年寄り」の言葉にふれると、歩くのが遅くなる?

よく聞く説

お年寄りを連想させる言葉を使う課題をしたあと、知らないうちに廊下をゆっくり歩いた——1996年のバーグたちの実験。「無意識に行動が動かされる」例として有名になった。

試したこと

赤外線センサーで、歩く速さを測り直した

2012年、ブリュッセル自由大学のドイエンたちが、ベルギーの大学生120人で同じ実験をした。人がストップウォッチで測るかわりに、廊下に隠した赤外線センサーで歩いた時間を測った。

わかったこと

遅くなったのは、実験者がそう思っていたときだけ

この方法では、歩く速さに差は出なかった。別の50人で、実験者の半分に「遅くなるはず」、半分に「速くなるはず」と伝えると、効果が出たのは「遅くなる」と思っていた実験者のときだけだった。

まだわからないこと

言葉が行動を変える力は、どこまであるのか

参加者の多くは、言葉とお年寄りの関係に気づいていたようすもあった。1つの大学での実験なので、言葉が無意識に行動を変える力がどこまであるのかは、まだ議論が続いている。

出典: Doyen et al., "Behavioral Priming: It's All in the Mind, but Whose Mind?" (PLoS ONE, 2012)

メタ分析

「やればできる」と思うだけで成績は上がる?

よく聞く説

頭の良さは努力で伸びると信じる「成長マインドセット」。これを教えると成績が上がるとして、世界中の学校で授業に取り入れられてきた。

調べた人

2つのメタ分析でまとめて確かめた

マインドセットと成績の関係を273件・約36万6千人分、マインドセットを教える授業の効果を43件・約5万7千人分の研究から集計した。

ほんとのところ

効果はどちらも弱かった

考え方と成績の結びつきも、授業の効果も全体では小さかった。ただ、家庭の経済状況が厳しい子や、成績でつまずきかけている子には役立つかもしれない、という結果も出た。

まだわからないこと

誰に、どんなやり方なら効くのか

「効く子もいるかも」という部分は、まだ絞り込みの途中。授業の内容や国もばらばらなので、どんな条件なら効くのかは今後の研究待ち。

出典: Sisk et al., "To What Extent and Under Which Circumstances Are Growth Mind-Sets Important to Academic Achievement? Two Meta-Analyses" (Psychological Science, 2018)

観察研究

長男はしっかり者、末っ子は甘え上手?

よく聞く説

生まれた順番で性格が決まる、という話はよく聞くよね。でも、これまでの研究では、はっきりした答えが出ていなかった。

調べた人

3か国・2万人分のデータで確かめた

ドイツのライプツィヒ大学などのチームが、アメリカ5,240人、イギリス4,489人、ドイツ10,457人の大規模な調査データを使った。同じ家のきょうだい同士でも比べた。

ほんとのところ

性格の違いは見つからなかった

外向性・情緒の安定・協調性・まじめさ・想像力には、生まれ順の差がなかった。知能テストの点は上の子ほどわずかに高く、「自分は頭がいい」という自己評価も少し高かった。

まだわからないこと

性格以外への影響は別の話

調べたのは大まかな性格の特徴で、もっと細かい好みや家族の中での役割までは見ていない。知能に近い部分には小さな差があったので、「まったく関係ない」とまでは言えない。

出典: Rohrer et al., "Examining the effects of birth order on personality" (PNAS, 2015)

メタ分析

ながら作業ばかりだと、気が散りやすい頭になる?

よく聞く説

スマホを見ながらテレビ、みたいな「ながら」が多い人ほど、余計な情報を無視するのが苦手。2009年にPNASで発表された研究が話題になった。

調べた人

再現実験とメタ分析で確かめた

オランダのフローニンゲン大学のチームが、2回の再現実験で合計14のテストを実施。さらに、これまで発表された研究から39の結果を集めて分析した。

ほんとのところ

つながりは、ほぼ消えた

14のテストのうち、気が散りやすさとの関係が出たのは5つだけ。より厳しい分析で残ったのは2つ。メタ分析でも弱い関係しかなく、小さな研究のかたよりを補正すると消えた。

まだわからないこと

実験室の外では、まだわからない

調べたのは画面上の課題での注意力。ながら作業そのものが勉強や仕事の効率を下げるか、という別の疑問への答えではないので、そこは混同しないでね。

出典: Wiradhany & Nieuwenstein, "Cognitive control in media multitaskers: Two replication studies and a meta-Analysis" (Attention, Perception, & Psychophysics, 2017)

あわせて読む女性はマルチタスクが得意?マルチタスクの男女差という別の説も、確かめると差はなかった

メタ分析

成功のカギは才能より「やり抜く力」?

よく聞く説

粘り強く続ける力「グリット」は、成功や成果を強く左右する性格の特徴として紹介されてきた。グリットを育てようという取り組みも注目された。

調べた人

88グループ・約6万7千人分を集計

アメリカのアイオワ州立大学などのチームが、グリットに関する研究の584の結果(88の対象グループ、計66,807人)をまとめて分析した。

ほんとのところ

成績との関係は中くらい。中身は「まじめさ」とほぼ同じ

グリットと成績・続けられるかの関係は中程度だった。しかも昔からある性格の「まじめさ(誠実性)」ととても強く重なっていた。ただ「努力を続ける」側面には、まじめさとは別に成績を説明する力があった。

まだわからないこと

グリットは鍛えられる?

グリットを伸ばす教育で成績が上がるかは、この研究では確かめていない。著者たちは、効果があっても小さいかもしれないと見ている。

出典: Credé et al., "Much ado about grit: A meta-analytic synthesis of the grit literature" (Journal of Personality and Social Psychology, 2017)

実験

「女子は数学が苦手」と意識させると、点が下がる?

よく聞く説

苦手だと思われていることを意識すると、本当に点が下がる。「ステレオタイプ脅威」と呼ばれ、教育の場でもよく紹介されてきた。

調べた人

オランダの中高生2,064人で大規模に実験

オランダのティルブルフ大学のチームが、事前に方法を登録してから実験する形で、13〜14歳の生徒を対象に数学テストで確かめた。数学への苦手意識やテストの難しさなどの影響もあわせて調べた。

ほんとのところ

女子の点数は下がらなかった

ステレオタイプを意識させても、女子の点数に全体として差は出なかった。苦手意識が強い子や、難しいテストなどの条件をしぼっても、効果は見つからなかった。

まだわからないこと

ほかの国・年齢・科目では?

著者たちも、結果はオランダの13〜14歳と数学に限った話だと書いている。ほかの状況で同じ効果がないとまでは言えない。

出典: Flore et al., "The influence of gender stereotype threat on mathematics test scores of Dutch high school students: a registered report" (Comprehensive Results in Social Psychology, 2018)

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